項構造の時代変化

ランチミーティング

京大の黒橋研究室に着任して1ヶ月がたった. 以前いたNAISTの松本裕治研とは色々と異なるが, それもまた良い刺激だ. この日記では,研究室のイベント等についても書いていきたいと思う.

さて,週に1回黒橋研究室では,ランチミーティングというものがある. 各自お弁当を持ってきて,連絡事項を伝えたりする.

連絡が終われば, 週代わりで1人情報や言語に関係するした雑談をする. 先日は私の担当だったわけだが,「項構造の時代変化」と題して話をした.

項構造の時代変化

「項構造の時代変化」というタイトルは若干 大げさな気もするだが,内容は自動詞と他動詞の交替についてだ. 格交替といえば,

壁をペンキで塗る
壁にペンキを塗る

のように,ヲ格とニ格が入れ替わる 壁塗り交替 (spray-paint alternation)が有名だが, 今回取り上げるのは

赤十字が募金する
赤十字に(学生らが)募金する

のようなガ格が変化するといったものだ.

資料はこちら

Q&Aで,他動詞が自動詞として使われるようになったのは無いかと聞かれて, とっさに答えられなかったが, 「撃沈する」はそうではないか.

漢語動名詞の内部構造("帰国"の帰と国がどのような関係にあるのかといった話)については 現代日本語の漢語動名詞の研究 (ひつじ書房) に詳しくまとめられていたので,気になる方は読んでみて欲しい. 項構造好きな方にはたまらない一冊だと思う.

事例を見る

言語現象をちゃんと観察してなかったなあ,というのが 院生時代の反省の1つだ. 金出先生の「独創はひらめかない」の 「できるやつほど迷うものだ」にも似たような話があった. (同等の内容がここでも無料で読める.)

大学院博士課程に入るとその気持ちからか,早く格好のいいことをしなければという何かプレッシャーのようなものを
自分自身に課していたことがある.
...
長尾真先生が,「金出君,もう少し具体的なことをやったらと言われ」...

そして,もっと理論的なことがしたいと思いつつも 顔認識に取り組んだという話だ. (そしてそれは世界で最初の顔自動認識の研究になったという)

この経験は私のその後の研究生活において非常に重要な役割を果たしたように思う.
研究,開発というものは具体的な目標をもったものでなければいけないという当たり前のことである.

私もそう思う. 「解析精度を上げたい」という漠然とした問題意識でしかなかったのだが, これからはちゃんと事例をちゃんと観察して, 解くべき問題をしっかり定義するところから始めたい.